
落書きのようで、ふざけていて、かわいくて、少し変。
Maux(モー)さんのタトゥーには、子供の頃に自由に描いていた絵のような、のびやかな空気がある。カッパや不思議なキャラクター、どこかユーモラスな線。綺麗に整いすぎていないからこそ、見る人の心にスッと入り込んでくる。
けれど、その柔らかな絵の奥にあるのは、ただポップで可愛いだけの世界ではない。
今回はFuga Tattoo Shop新宿で活動するタトゥーアーティストMauxさんに、タトゥーとの出会い、作風の原点、そして安心できる施術空間について話を聞いた。
自由に描くことが、少しずつ難しくなっていった学生時代


Mauxさんは、子供の頃から絵を描くことが好きだった。特に好きだったのは、友達のために絵を描き、喜んでもらうことだった。
しかし、高校でアートの授業を受けるようになってから、その気持ちは少しずつ変わっていく。周りには絵の上手い生徒がたくさんいて、授業には「アートとはこういうものだ」という暗黙の空気があった。
「自分が描きたいと思って、好きなように描いて出したものに対して、『これ違うでしょ』と評価されるのがすごく嫌でした。じゃあ、誰のために描いているんだろう。こういうルールって誰が作っているんだろうって思ってしまって。」

評価や正しさの中で、描くことは少しずつ苦しいものになった。今のMauxさんの絵には、子供の頃の自由な感覚へ戻ろうとする強さがある。
タトゥーシールが「本物のタトゥー」になる瞬間
タトゥーアーティストという道を意識したきっかけは、東京で開かれたアートフェアだった。LGBTQ+のアーティストが参加するイベントで、Mauxさんは自分で作ったタトゥーシールを置いてみた。
そこで、あるお客さんがこう言った。
「このデザインを、本当のタトゥーとして入れたい」
その言葉を聞いた時、初めて「ありかもしれない」と思った。
「当時は大学に通っていたんですけど、自分のアイデンティティが削られていくような感覚があって。自分のままで生きることが難しいなと思っていました。」
そんな時期に、初めてフラッシュタトゥーイベントへ足を運ぶ。そこで見たのは、アーティストが自分のオリジナルデザインを並べ、お客さんがその中から選ぶタトゥーのあり方だった。
「こういう形もあるんだって知りました。空間もすごく賑やかで、みんなデザインを見ながら幸せそうで、楽しそうで。私もこういう感じで、周りの人をもっと笑顔にしたいなって思ったんです。」

子供の頃、誰かのために絵を描き、喜んでもらうことが好きだった。フラッシュイベントで見た笑顔は、その感覚をもう一度思い出させてくれるものだったのかもしれない。
DIYな始まりからFuga Tattooへ
タトゥーを学び始めたきっかけは、フラッシュイベントで出会ったメキシコのアーティストだった。仲良くなったタイミングで「タトゥーをやってみたい」と話すと、相手は気軽に受け入れてくれた。
マシンを買い、基本的なことを教わりながらオレンジやバナナに彫るところから始まった。初めて人の肌に彫ったのは、練習を始めて約1ヶ月後。相手は、今のパートナーだった。
「手がめっちゃブルブル震えていました。深く針を入れすぎるのが怖くて、かなり浅く彫って。ギリギリ色が入るくらいでした。」

その後は、練習中であることを理解した友人やモニターに協力してもらいながら、経験を重ねた。施術場所はコミュニティスペース。始まりはかなりDIYだった。
やがてInstagramで発信していたことをきっかけに、Fuga Tattooの関係者から声がかかる。DIYの空間から本格的なスタジオへ移ることには大きな違いがあり、慣れるまでには時間がかかった。
それでも、Mauxさんは多くのモニターを取り、経験を重ねていった。自分の描きたいものではなく、お客さんの希望に応じて彫る機会も増えた。それは、Mauxさんにとって大きな学びでもあった。
子供の頃に見ていた世界をタトゥーにする
Mauxさんのタトゥーは、漫画のようでもあり、落書きのようでもある。少しふざけていて、かわいくて、どこか変。その雰囲気は、最初から大きく変わっていない。
「今私が描いているものは、子供の頃とあまり変わっていません。本当に、ずっとそのままですね。落書きっぽくて、ふざけた可愛い変なやつ、みたいな。」
その作風をよく表すエピソードが、カッパのデザインだ。
最初はMauxさんがふざけて、軽く描いたものだった。しかし、それをSNSに上げると、気に入ってくれる人が増え、いつの間にかシリーズのようになっていった。
「あるお客さんは、カッパが正体を隠して人間の世界で生きている感じが好きだといってくれて。そこからいくつか設定を考えて、デザインしました。」
Mauxさんが好きなのは、少し変で、少し面白いもの。綺麗に説明しきれないけれど、なぜか愛着が湧くもの。
「今の画風は、子供の頃の私が見ていた世界を、タトゥーを通して表現しているものだと思っています。もっと子供の頃の自分と繋がって、変わったものを作りたいですね。」
「安心して彫られる」ということ
Mauxさんが強く意識しているのは、安心してタトゥーを入れられる空間づくりだ。タトゥーを入れることは、身体を人に預ける行為でもある。だからこそ不安や怖さを感じる人がいる。
「LGBTQ+であることや、障害があること、人種や肌の色によって、タトゥーを入れること自体が怖い経験になることもあると思うんです。だから、タトゥーを入れる時に『自分は安全だ』と感じられることが本当に大切だと思っています。」

施術前には流れを説明する。身体に触れる前、クリームを塗る前、服を脱ぐ必要がある時には、一つひとつ同意を確認する。会話をしたくない人には、無理に話さなくてもいい。使いたい名前や代名詞も確認する。
「身体的な安全だけじゃなくて、感情的な安全も大切です。タトゥーを入れるときって、すごく無防備になるので。」
その積み重ねが、Mauxさんにとっての施術の時間を作っている。
「私が彫ったタトゥーは、お客さんがこれからずっと一緒に人生を過ごす仲間になる。その重みを感じます。」
タトゥーとアートが混ざる場所を、いつか東京に
肌の色についても、Mauxさんは「難しさ」ではなく「その肌の上で何が一番綺麗に見えるか」という視点で考える。大切なのは、できないと決めつけることではなく、技術的な知識を持ち、お客さんと一緒に考えることだ。
今後について、Mauxさんはいつか自分の考えを反映したスタジオを持ちたいと話す。
「東京でも、自分の画風でやっているアーティストがすごく増えていると思います。そういう人たちにもっと簡単にアクセスできる、そういう人が集まる場所を作りたいです。」
ただ持ち込みデザインを彫るだけではない。アーティストの作品を見て、「この画風が好きだから、この人にお願いしたい」と思える場所。タトゥーとアートの世界が自然と混ざるような場所。

最後に、Mauxさんにとってタトゥーとは何かを聞いた。
「タトゥーとはアートであり、自分を表現するものだったり、自分の身体をもっと愛するものでもあります。でも一番しっくりくるのは、人生を一緒に経験してくれる仲間みたいな感じですね。」
落書きのようで、ふざけていて、かわいくて、少し変。Mauxさんの絵は、今日も誰かの身体の上で、その人の人生を一緒に歩いていく。
※2026年7月21日追記:Mauxさんは、現在Fuga Tattoo Shopから移籍をし、別店舗にて活躍中です。









