タトゥーアーティスト・インタビュー連載第15回は、KAGEROU TATTOO 日本橋店で活躍するQuanさんです。最初は先輩彫り師から『一番下手』と言われながらも、今ではKAGEROU TATTOO SCHOOLで講師を務めるまでになったQuanさんのこれまでの歩みや、タトゥーに対する価値観、未来の展望についてお話を伺いました。

絵と音楽がつないだ『タトゥーへの入り口』
幼い頃から音楽や絵、アートが好きだったQuanさん。物心ついた頃には、アニメや漫画のキャラクターを描いて過ごすことが日常になっていたという。
「中学生でギターを始めたのですが、当時好きだったジョン・メイヤーや、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのメンバーがタトゥーを入れた影響で、タトゥーをかっこいいものとして意識し始めましたね。」
最初は絵を描くのが好きなだけで、タトゥーアーティストを志した訳ではなかったという。
イラストレーターやアニメーターなど様々な仕事を検討する中で、いつしか『自分でも彫ってみたい』という気持ちが自然と膨らんでいった。
夢を形にするための修行と努力

タトゥーの世界に入ると決めたものの、最初の一歩は決して簡単ではなかった。
「片っ端から求人に応募して、最初の店舗に所属できました。でも、全然教えてもらえなくて。」
それでも、一つの出会いがQuanさんのタトゥーアーティストとしての人生を大きく進展させる。
「そんな時に、ベトナム人の彫り師の方と知り合って、線の引き方や、消毒の仕方など初歩的なことを少しずつ教えてもらえるようになったんです。」
イラストレーターをしながら、タトゥーを教えてもらう。そんな生活を続けるが、その方の帰国を機に、別の店舗に所属して修行期間を過ごす。
今ではKAGEROU TATTOO SCHOOLで教鞭をとっている彼女からは想像できないほど、当時は失敗と試行錯誤の連続だったという。
「2度目に所属した店舗では一番…本当に過去一下手って言われてました。でも、毎日描いて、自彫りして、スキン彫って、終電で帰る生活をしていたらちゃんと上手くなっていったんですよ。要点を押さえてきちんと毎日やったら、絶対できるようになります。」
今でもその頃の習慣は変わっていないという。努力と向き合い続ける姿勢が、彼女のスタイルを少しずつ形づくっていった。
かわいいとリアルのあいだで
「オールジャンルに対応しているのですが、アニメのキャラクターや、ポニョのようにポップでかわいいモチーフが個人的には好きです。彫る前は絶対に映画やアニメを見直して、色や雰囲気を思い出してから描くようにしています。」
ブラック&グレーを中心としながらも、作品の中にはポップなキャラクターや動物などのモチーフも多い。ユーモラスで柔らかいタッチの中に、確かな技術が息づいている。
しかし、Quanさんは現状で満足する気はなさそうだ。
「将来的にはリアルで小さいカラーの作品ももっとやっていきたいと思っています。韓国でよく見る、ミニマルでカラーをたくさん使った雰囲気が理想ですね。」
本人は、自身のビジョンを『彫り師らしくない』と形容する。だが、その感覚の根底には彼女ならではの経験が息づいている。
イラストレーターとして働いていた時、無数のアーティストの作品や色使いを研究する中で、色同士の相性や組み合わせによって生まれる空気感を瞬時に捉える力を身につけていった。
そうした感性を武器に、彼女は自分だけのスタイルを模索し、表現を進化させ続けている。
『伝える人』としての新しい挑戦

近年は、タトゥーの技術を学びたい人たちに向けて指導も行っている。
「タトゥースクールはレッスンの回数が決まっているので、その中で絶対にすぐ彫り師になれるとは断言はできません。ですが、スクールなので『弟子入りしたけど、あまり教えてもらえなかった』ということは絶対ありません。基礎的なところから、私がこれまで練習してきたことや彫り師になれるまでの過程を伝えていきます。」
「一番下手って言われていた私が今できているので笑」と振り返るその表情には、努力を惜しまなかった人だけが持つ静かな自信がにじんでいた。
タトゥーを『学べる文化』として広めていく。
彼女の穏やかな言葉の中に、そんな使命感が滲んでいる。
タトゥーは『良き友であり、時に敵』

最後に、Quanさんにとってタトゥーとは何かを尋ねると少し考えてから、静かにこう答えた。
「『良き友であり、時に敵』ですね。一生身体に残るからこそ、何年経ってもずっと気に入ってもらえるものを作りたい。とても重みのある仕事なので、誇りに思うこともあるし、苦しめられることもあります。だからこそ、なおさらこの仕事をずっと続けていきたいと思っています。」
「将来的には自分のスタイルを確立して、もっと自分のデザインを好きって言ってくれる人を増やしたいです。フラッシュを出したら全部すぐに売れるくらいに。」
飾らない言葉の奥に、強い意志がある。彼女のタトゥーには、そんな『人の温もり』が宿っている。







