和彫りとは?タトゥーとの違いや値段、人気のデザインも含めて解説
2024/06/17
日本だけでなく昨今は海外でも知名度を得ている「和彫り」。一説には、縄文時代から存在するとされている日本の伝統的なタトゥーのスタイルです。
そこで今回は、和彫りとタトゥーの違いから値段相場、人気のデザインとその意味まで徹底解説します。
※一部主観に基づいておりますのでご留意下さい。
日本において和彫りは江戸時代に最も流行しました。当時、刑罰として彫り物が使われていた一方で「水滸伝」という中国の小説が大ヒットしたことが大きな契機となります。その中で出てくる登場人物たちが背負う、色鮮やかな彫り物が「男らしさ」の象徴として大衆へ浸透していきました。
しかし、その後明治時代にかけて反社会的な存在と認識されたことから「刺青禁止令」が発布されます。そんな中でも、「粋」で血気盛んな当時のアウトローたちの間で刺青の文化が廃ることはなく、その流れで「彫り物=怖い」と認識されることとなりました。
では、和彫りとは何をもって和彫りなのでしょうか。一般的には日本的な和の図柄を「力強い輪郭線」「ぼかし」「額(見切り)」などの伝統的な技法を用いて描かれていることとされます。
しかし、厳密に言えばネオ和彫り・ネオジャパニーズスタイルは和彫りなのか。また、江戸時代当時は手彫りでしたが、機械で彫られたものも和彫りになるのかなど、人によって異なる部分もあります。なので、明確な和彫りの定義というものは統一されていません。
では、和彫りとタトゥーの違いはどうなるのでしょうか。
先ほどの説明をもとにいえば、日本的な図柄と技法を用いられた彫り物は和彫りで、それ以外がタトゥーと考えることができます。しかし、和彫りの定義が定まっていないのと同様に明確な違いは定められていません。
針を刺す深さや和柄を用いたもの、前述したような輪郭線やぼかしが描かれていることなどで定義している人もいれば、より厳密に定義する人もいます、なので、人によりけりというのが答えとなってしまいます。
一般的に想像されるような背中一面の和彫りなどは、基本的に時間彫りとなります。
つまり、1時間⚪︎⚪︎円で何時間かかったからいくらという計算です。
以下にサイズごとの目安を出しておきますが、あくまでも目安である点はご留意ください。
時間彫りを彫師さんの平均値『10,000〜20,000円/1時間』として、施術時間を仮定すると価格目安が以下のようになります。
施術箇所 | 施術時間 | 目安価格 |
胸〜腕:三分袖 | 15〜18時間 | 150,000円〜360,000円 |
胸〜腕:五分袖 | 18~24時間 | 180,000円〜480,000円 |
胸〜腕:七分袖 | 24~28時間 | 240,000円~560,000円 |
胸〜腕:九分袖 | 28~35時間 | 280,000円~700,000円 |
背中抜き彫り | 30~40時間 | 300,000円~800,000円 |
背中額彫り | 40時間〜65時間 | 400,000円〜1,300,000円 |
この他にも、下絵代や、針などの消耗品代などが別途必要となる場合もあります。
また、図柄の細かさや身体の大きさによっても上下します。
さはさりながら、和彫りは基本的に一生付き合うものですので、値段だけで決めてしまうのは非常に危険です。値段で妥協せずに、入れたい柄の大きさや彫り師の方々の画風を考えた上で決めることをお勧めします。
和彫りの構図には大きく分けて関東彫り、関西彫りに分けられます。
関東彫り(画像左方)は見切りが細く、ひかえが乳首の上で弧を描きます。一方で、関西彫り(画像右方)は見切りが太く、ひかえは乳首の下まで至るのが関西彫りとされています。
ただし、初代彫宇之という明治から大正時代に神田で活躍された著名な彫師がいらっしゃいますが、彼も元を辿れば関西の彫師が師匠に当たるとされています。そういった意味では、明確に関東・関西と二分化することは難しく、あくまでも一つの見方としてお考えください。
またこの他にも、胸割りや総身彫り(どんぶり)などの構図もあります。
和彫りのデザインには、それぞれ歴史と共に意味が込められています。
絵柄を決める際には、これからご紹介する図柄が持つ意味や想いなども含めて考えてみられてはいかがでしょうか。
映画やドラマ、昨今ではゲームなどでも用いられることの多い図柄をご紹介します。
人気である絵柄なため、題材が人と被ってしまうことはありますが、人気になるだけの良さを秘めています。また、同じ題材であっても彫り師の方々の感性やセンスによって図柄は多種多様な表情を見せるので、題材の被りを大きく気にする必要もないかと思います。
龍には「出世」という意味があり、3本指から始まり5本指が最高の龍とされています。
厳密には、昇龍・降龍や青龍、黄龍、黒龍など様々な種類があり、一言に「龍」と言ってもそこに含まれる意味は変わります。また、西洋で言われるドラゴンと中国由来の龍は同じではありません。なので、西洋における意味合いはまた異なります。
虎は全般的に、「勇敢」「強さ」「力」「権威」「金運アップ」などの意味があります。
龍虎という言葉に表されるように虎は龍と対するもの考えられ、龍が精神面の強さ、反対の虎は肉体的な強さと言われています。日本だけでなく海外でも人気のデザインとなっています。
鯉は古くから人気の高い図柄の一つとなっています。その人気は日本だけに留まらず、日本的な鯉のデザインに魅せられた海外のアーティスト達によって、世界中でも人気を博しています。そのため、タトゥー界隈においては「carp」とは呼ばず、「koi fish」と呼ばれるほどです。
「滝を登りきった鯉が龍になる」といった伝説があるように鯉は「出世の象徴」として知られています。また、鯉と龍を掛け合わせた登竜門という図柄も同様の意味から人気です。
その他にも「長寿」「勇気」「忍耐力」などの意味もあります。
「亀は千年」ということわざの通り、亀は不死と長寿の象徴となっています。
また、中国四神の一体であり、伝説上の神獣である玄武(霊亀)も亀がベースとなっています。
一般的に玄武は、亀の体に蛇が巻き付いた姿や尾が蛇になっているもの、亀単体など様々な姿で描かれます。
蛇は脱皮と再生を繰り返すことから、不老不死の象徴となっています。それゆえに蛇のデザインが持つ意味は、再生、永遠などが挙げられます。また、日本において、蛇は古くから信仰されています。
その代表例が8つの首を持つ大蛇ヤマタノオロチでしょう。古事記では、人間の娘を喰う怪物として登場し、天照大御神の弟である須佐之男命が退治した話があります。このヤマタノオロチも蛇信仰の一種であり、山や河川といった自然が起こす人知を超えた脅威を蛇に見立て神格化した存在と考える事ができるでしょう。
玄武と同様に中国四神の一体である鳳凰は、幸福の訪れ、華麗、慈悲などの意味が挙げられます。中国の言い伝えでは、鳳凰は5色の華やかな羽(赤・黄・青・白・黒)を持つと言われており、天下泰平の象徴とされています。鮮やかなその姿は女性人気も高い図柄となっています。
また、西洋のフェニックスとは混同されがちですが鳳凰は中国由来で、フェニックスは古代エジプト由来となっており全くの別物ですので注意が必要です。
桜の花は、開花したから一週間ほどで散ってしまうことから、人生の儚さの象徴とされています。人生は、儚く永遠にわからないものはないという仏教の思想、諸行無常に関連しています。
また、桜の花言葉は「精神の美」「優美な女性」「純潔」となっており女性にとっても入れやすい絵柄となっています。
この二柱の神様は昔インドから日本へ伝わったのですが日本においては悪い神でした。しかし、千手観音との戦いで敗れ、人のために尽くす約束で善神となりました。
そのため、風神雷神には守護の意味があります。
ここまでご紹介した人気のデザイン以外にも意外な縁起を担いだ、いわゆる縁起物の図柄も存在します。以下では、そうした縁起物の図柄の意味をご紹介します。
生首は日本の伝統的な刺青の図柄として、古くから親しまれています。
戦国時代、侍は名のある武将を討ち取った際には、その首を証拠として持ち帰りました。なので、首をとられないよう、そして武運を祈って陣羽織などに生首の刺繍や紋様を入れていました。それにより、生首の図柄は魔除けとなっています。
日本を代表する妖怪である鬼ですが、物語によっては善良であったり、神様であったり鬼の設定は様々存在します。
鬼は特別な霊力を持っていて、この鬼の力を借り、悪霊を寄せ付けないことで縁起物と考えられています。
また仏教では、善鬼神・悪鬼神という2種類の鬼神が存在しており、善鬼神として著名なのが梵天や帝釈天、阿修羅といった神々です。
般若は元々、仏教において悟りで得られた知恵のことを指します。和彫りにおいて般若と呼ぶものは、般若の面のことをさします。
般若の面は、日本の伝統芸能である能で用いられる能面であり、二本の角と上下に二本ずつの尖った牙があります。この般若の面は、女性が嫉妬や怨みから鬼になった顔が由来となっています。その為、般若の面は、心境や喜怒哀楽を表す意味で用いられます。そのほかには、邪気を追い払うといった厄除け的な意味もあるようです。
阿修羅は古代インドの神の一族で、争いを好み天上の神々に戦いを挑む邪悪な神です。三面六臂(3つの顔に6本の腕)の姿で、悪神らしく非常に恐い形相をしています。
しかし、仏教においてはお釈迦様の教えを受けた阿修羅が、過去の行いを反省し、仏教とその教えを信じる人たちを守る神様へと生まれ変わりました。それゆえに、改心や守護などの意味があります。
毘沙門天は古代ヒンドゥー教で金運と福徳の神様だったため、日本でも財福の神様として信仰されることがあります。また、仏教を守るというイメージから、戦勝の神様として、疫病を祓い無病息災を願う神様として祀っている神社仏閣もあります。
不動明王は、真言密教の最高仏と言われる大日如来の成り代わった姿とされています。
不動明王の不動とは「いかなる時も心、動じず」という意味の不動であり、楽な方や楽しいことに流される心・煩悩を戒めるという意味を持っています。そのほかにも、炎をまとった不動明王は人々の煩悩や悪魔を焼き尽くす神とも知られており、厄除けや守護といった意味もあります。
麒麟は中国の神話に登場する霊獣です。馬の尻尾と馬のひづめを持ち、非常に優しい性格から他を傷つけることがないように、地に足を下ろさず常に空を駆けています。そんな麒麟は、古くから幸運の前兆とされており、安定した穏やかな日々をもたらす存在、幸せを招く幸福の象徴とされています。
その為、麒麟は平和や親愛、聡明などの意味があります。
ダルマは受験合格などの験担ぎに、日本では古くから親しまれています。そしてダルマの刺青には、忍耐や開運、繁栄などの意味があるとされています。
忍耐という意味にはある伝説が背景にあります。そもそもダルマは、達磨大師という僧侶が元になったと考えられています。この達磨大師は9年間壁に向かって坐禅を続けた結果、手足が腐ってしまったと一説では言われており、この伝説からダルマが誕生したと言われています。その為、忍耐という意味が含まれているのでしょう。
和彫りの用語はタトゥー業界の用語とも異なり、意味が分かりにくい言葉もあります。
以下では、頻出する用語とその意味をご紹介します。
普段は見えませんが、お風呂に入ったり興奮したりして体温が上がると浮き出してくる刺青のことを白粉彫りと呼びます。現実には存在せずファンタジーのものですが、昨今はブラックライトで浮き上がるタトゥーもあり近いものがあります。
肩から手首までの腕の長さを考えた時に、肘は丁度中間の五分の位置にあたる為、胸や肩から肘あたりまで刺青が入った状態を五分袖と呼びます。 主に和柄で額彫りの場合に、この言葉を用いる事が多いです。
英語ではハーフ・スリーブタトゥーなどと呼ばれます。 洋服でも袖の長さが肘あたりまでのものを五分袖と呼びますが、似たイメージです。 どこまで彫るかの割合に応じて、肘あたりまでは五分袖、手首あたりまでは十分袖、肘と手首の中間より少し上あたりは七分袖と呼ばれます。
タトゥーではアウトラインと呼びますが、下書きとして下絵の輪郭などの線を彫る事やその線のことを筋彫りと呼びます。
筋彫りされた中を塗りぶす方法でシェーディングとも呼ばれます。墨の濃淡でグラデーションをかけることで立体感を出す技法となっています。
とはいえ、ぼかしにも薄ぼかしや曙ぼかし、水ぼかし、砂利ぼかしなど様々な種類があります。
額などの背景をつけず題材となる絵柄のみを彫ることをぬき彫りと呼びます。旦那彫りや浮き彫りとも呼ばれます。和彫りの厳つさを好まない方などにも好まれる技法です。
額彫り・化粧彫りはメインとなる図柄の周りに墨の濃淡やぼかしの技法を用いて、雲や炎、波、渦、岩などの額を彫ることを指します。
額を彫ることで、胸と腕、胸と腹などの絵柄と絵柄を繋ぎ全体に統一感をもたすと共に、主体となる図柄を際立たせることができます。基本的には、全体的なストーリーと関連のあるデザインが選ばれます。
稀に、白粉彫りと化粧彫りが同じだと思われがちですが、全くの別物です。
図柄に人物を彫る場合に、その人物に彫られている刺青も一緒に彫ることを二重彫りと言います。九紋龍史進や舩火児張横などの水滸伝に登場する人物が題材となる場合に二重彫りが行われることが多くなります。
脇下や内股などのあまり人から見られることのない場所に、全く違う図柄を彫ることをかくし彫りと呼びます。かくし彫りで彫られる図柄には春画などの淫靡な図柄や名前、言葉など。また、昨今ではアニメキャラなどを彫る人もいます。
墨だけの一色を使いぼかしを行った彫り物のことをカラス彫りと呼びます。
地肌と墨の入った部分の境目、見切られた部分の総称が見切りと呼ばれます。単純に言えば、刺青の端のようなイメージです。
見切りは額と混合されがちですが、ぬき彫りの周囲に額を付けることを「見切りを付ける」「見切りを入れる」という事があり、額の代わりに使われることもあります。
また見切りには、牡丹見切りやぶつ切り、曙見切り、砂利見切り、雲見切り、数珠見切りなどがあり、幅がある言葉となっています。
腕の付け根から胸にかけて丸くなっている額の形をひかえと呼びます。太鼓と呼ばれることもあります。
えぐりは着物などで襟ぐりから見えないように、首回りの空きであったり、曲線をつける型のことを指します。
筋や色などを突き直す事で、突き直しとも呼ばれます。
さらい(突き直し)をする事で、経年によって色が褪せてしまったり筋がボケてしまった彫り物を、蘇らせることができます。
今回は和彫りについて解説しました。
現代に至るまで伝承され、今や世界でも注目を浴びる和彫りは日本の伝統的芸術と呼べるでしょう。洋彫りとはまた異なる魅力を持った和彫りは、ネオ和彫りとして新たな進化を遂げようとしています。これからの和彫りに目が離せません。