
「かわいいと思った瞬間や、そのときの思い出を刻みたい」——そんな想いから19歳のときに初めてタトゥーを入れたななさん。今ではダークファンタジーの世界観を得意とするタトゥーアーティストとして、国内外を行き来しながら創作を続けています。
日本の“和”テイストを活かした落ち着きのあるプライベートスタジオで、彼女はどんな想いを込めて作品を生み出しているのでしょうか。タトゥーとの出会い、アーティストへの道のり、そして未来の展望を伺いました。
ななさんのタトゥーとの出会い

—— まず、最初にタトゥーを入れたきっかけを教えてください。
もともとタトゥーには興味があって、最初に自分に入れたのは19歳のときです。ただ「可愛いな」という理由でしたね。最初は“バーベナ”という小さな花のタトゥーを彫りました。桜に近い見た目で、小さい花がポンとある感じが気に入って。
でも一つ入れると「やっぱり自分の体に一生残るものを、良いと感じた時々に刻むんでいくのって楽しいな」と思って、どんどん増えていきました。
—— それまでもタトゥーを身近に感じる環境だったんでしょうか?
そうですね。ファッションの専門学校に通っていたので、ストリートや海外カルチャーが好きな子が周りに多かったです。他には昔から異国の文化や民族学や哲学の勉強が好きだったので、そこからも影響を受けていると思います。
絵を描くことが好きだったから、彫り師に
—— 彫り師としてやっていこうと思ったのはいつ頃ですか?
21歳のときです。昔から絵を描くことが好きだったので、絵にまつわる仕事をしたかったんです。
絵を描くことが自分にとって一番楽しいことなので、一生それを仕事にしても、嫌にならないだろうなという確信がありました。最初は自宅でマシンを買って、フェイクスキンや自分の足に彫って練習していましたね。その後は彫り師の知り合いに見ていただいたり、教えていただいたりしながら勉強していきました。
ブラック&グレーで描く“ダークファンタジー”



—— ななさんのインスタを拝見すると、ダークファンタジーな世界観が際立っていて素敵です。どうしてそのテイストに?
なな: もともと映画や絵画のダークな雰囲気が好きなんです。ダークファンタジーの中の1つでギレルモ・デル・トロという監督が出している映画の映画のような雰囲気が特に好きで。繊細な線と淡いグレーで、そういったダークファンタジーの世界観を表現したいなと思ってます。
—— たまに色の入った作品も見かけますが?
なな: お客さんが「こんな感じにしたい」って持ってきた参考画像や、私が過去に描いたデザインを組み合わせることもあるので、結果的にオールジャンルになります。でも中心にあるのは、“ダークファンタジー寄りの繊細さ”ですね。
プライベートスタジオへのこだわり


—— 今のスタジオ、和室を改装されているんですよね。和モダンな雰囲気が落ち着きます。
なな: ありがとうございます。最初、普通に和室だったんですけど、どうせなら“和”の良さを残しつつクールな感じにしたかったんです。壁を黒く塗って、ちょっと暗めのカーペットを敷いてみたり。狭い空間ですけど、初めてタトゥーを入れる方でも緊張しすぎないよう、落ち着いた雰囲気を心がけています。
—— 施術のとき、お客さんもリラックスできそうですね。
なな: そうですね。緊張して力みすぎて、急に動いてしまうと良くないので、できるだけ安心していられる感じが理想ですね。
施術までの流れ——チャットでデザインをすり合わせ
—— 予約や打ち合わせは、主にSNSでやり取りをされているんですよね?
そうです。私のインスタのハイライトに予約方法をまとめてあるので、そこを見て情報を送ってもらう形です。「名前・連絡先・年齢・希望デザイン・彫りたい場所」などを書いていただいて、画像も送っていただくことが多いです。
その送っていただいた画像からお客様の好みやイメージを用意します。もちろん当日もスタジオで下絵をお見せして、修正がある場合は何度でもデザインを調整します。
「気分を上げる記録」——ななさんにとってのタトゥー

—— 改めて、ななさんにとってタトゥーとはどんな存在でしょうか?
私にとっては「記録」かもしれません。その時々の気持ちとか、一目惚れしたデザイン、旅先で感動した場所……そういう瞬間を肌に刻んでいる感覚ですね。スペインの街並みやフィンランドで見たオーロラみたいに、インスピレーションを受けたものをタトゥーに落とし込むこともあります。
—— タトゥーを入れるうえで、後悔しないために気をつけることは?
仕事の都合で制限がある方は、どこに入れるかよく考えたほうがいいですよね。首や手の甲に大きいものを入れて「やっぱり就職が……」となるなら、それでも良いと思うならOKだけど、やっぱり自己責任です。
あと、若いうちに勢いで彼氏・彼女の名前を入れちゃうとか……そこはカバーアップになる可能性が高いので(笑)、よく考えてから決めてください。私は「可愛いから入れる」っていうラフさも好きなんですけど、全部ひっくるめて“自己責任”と“覚悟”は大事かなと思います。
これからの目標——世界を見て、かっこいいばあちゃんに
—— 海外にもよく行かれるとか。フィンランドに行かれたそうですね?
なな: はい。年末にプライベートで行ってきて、運よく初日にオーロラを見られたんです。あの幻想的な風景は、まさにダークファンタジー好きにはたまらないですね(笑)。
—— 将来は海外を拠点に活動する可能性も?
なな: 短期的に行ってみたいですね。1年ぐらい住んで、海外の空気感をそのままタトゥーに反映できたら面白そうです。でも最終的にはやっぱり日本の生活も好きなので、「ちょっと行って、戻ってきて」を繰り返すイメージです。最終的には「かっこいいばあちゃん」でいたいなと思ってます。
編集後記
取材を通して、ななさんのタトゥーには“楽しい思い出”や“自分らしさ”が刻まれているように感じました。
ダークファンタジーやブラック&グレーで描く世界観は、彼女の好きなものや旅先の感動が反映されたもの。常に刺激を求めて飛び回りながら、「かっこいいばあちゃん」でいる未来を目指す姿が印象的でした。
タトゥーを入れる・入れないは人それぞれですが、ななさんの言葉には「自分の気持ちを大切にしたい」という思いが詰まっているように思います。
(取材・文:タトゥージャパン編集部 / 取材協力:なな)