タトゥーアーティスト彫みつの美に対するあくなき挑戦 – TATTOO JAPAN #2
2024/11/17
タトゥーアーティストインタビュー連載、第2回目はスタジオ2店舗でタトゥーアーティストとして活躍中の彫みつさんです。店舗の所在地非公開という謎のベールに包まれた彫みつさんの、アーティストとしてのこれまでや価値観、現在の代表作と言える水墨画タトゥーについてお聞きしました。
–彫みつさんのタトゥーとの出会いについて教えてください
タトゥーとの出会いは10代の頃なのですが、アートという意味では幼稚園の頃から触れていましたね。
親が好きだったこともあって、幼稚園の頃からアクリル画などの絵を描いてコンクールに出したりしていました。でも、小・中学生くらいになるといわゆる絵画を仕事にして生きていくのは現実的に難しいことにも気づいてきて。
そんな中で彫り師という職業はなんだか僕にとってリアルだったんですよね。美術という大きなカテゴリーの中で一番イメージができたんです。
–そこで彫り師という選択肢がよく出てきましたね
これは彫り師として活動し始めてから2年くらい経った後に知ったのですが、実は彫り師の家系だったんです。祖母の家に刺青の版画の資料がたくさんあったり、思えばそう言ったところから影響を受けていたんだと思います。
彫り師として働き始めてからそれを知ったので、運命を感じましたね。
–好きなことを突き詰めていったら彫り師に辿り着いたんですね
そうですね、近いかも知れません。美術のジャンルで14年間ハマったのが、今一番好きな刺青であり彫り師で、15年後はもしかしたら絵のほうに行ってるかもしれない。可能性は低いですが、そういった感覚でやっています。
–タトゥーアーティストを仕事にしてからは順調でしたか
全然です。ギリギリ彫り師一本で食えるか食えないかの期間が5年間ぐらいずっと続いてましたね。僕は形から入りたいタイプなので、親が貯めてくれていた学費も使って、借金して機材を揃えました。
それもあってしばらくは貧乏暮らしでしたね。
その間は一見さんやインスタからも受けてみたり、色んなやり方を試してました。試行錯誤の連続でしたね。
–なぜ今は一見さんお断りにしているのでしょうか
一番は今のお客さんや常連さんを第一優先にしたいからですね。今は既存のお客さんを大事にした上でその人の紹介であれば受けています。新規を受け入れてしまうと、今のお客さん達を1年待たせることになってしまうので、それは嫌じゃないですか。
それに加えて、タトゥーはお客さんと彫り師の共同作品だと思うんですよ。
例えば、これは実際にあったことではないのですが、お客さんが先輩だとして、「彫ってよ!安くして!」って言われた時、そういった何もリスペクトを感じてない相手に彫りたいとは思わないですし、他に行って欲しいですよね。
嫌味に聞こえてしまうかもしれませんが、僕は本気で彫りたいなと思う時しか彫らないんです。お客さんとすごくフィーリングが合って、その人と何か一緒に作品を作りたいなと思ったら初めて受けます。
長年このスタイルでやってきたら、あまり良くないお客さんや世間で言う悪い人は自然と紹介されなくなっていきますね。今の僕のお客さんは全員良い人ばかりです。
ただし一見さんを全て断って成り立つには、僕自身が「この人に自分のタトゥーを彫ってもらいたい」と思われないといけないので、常に動き続ける必要があります。
その1つが発信力だとも思っていて、インスタからお客さんを取らないのに、SNSに力を入れているのはそれが1つの理由です。
また、最近SNSに力を入れているのは今まで関わってくれた人のためでもあります。お客さんはもちろんのこと、お兄ちゃんっぽく面倒見てもらっている人、仲良くしてもらっている人とかも、自分が有名になれば自慢してもらえると思うんです。
それに、有名になると今までと人脈も大きく変わると思うので、その人脈から恩返しできたらと。お世話になった人が何かで困った時は、お金で返すよりも人の繋がりで助ける方が良い恩返しだと思っています。
ただ、東京に来るまでは有名になりたいと思っていなくて、自分の作品をうまく追求するのが楽しいからやっているという感じでした。なので、恩返しのためにもっともっと有名になろうと思ったのはこの2、3年です。
–水墨画タトゥーは彫みつさんの代名詞だと思うのですが、きっかけはなんでしたか
外国人のお客さんにジャパニーズスタイルで何か彫って欲しいと頼まれたのがきっかけです。最初は和彫りにしようかと思ったのですが、ちょっとありがちかなと思って。そこで閃いたのが水墨画でした。
そして、その作品を完成させてみると自分も腑に落ちて、そこから水墨画をお客さんに勧めてしばらくやってみました。
–どのようにして水墨画の特徴を掴まれたんですか
筆の毛は痛みなどから乱れるので、実際に筆を使って描いてみたり、水墨画の個展を見に行ったりして微妙に出ている毛先や筆の癖を徹底的に調べました。そしてその癖を自分にインプットして再現したのが今の水墨画タトゥーです。筆で描いた際に出る癖から、毛の乱れや濃淡を頭の中で常に想像しながら彫っています。
さらに、今年から水墨画のスクールに入ったのですがとても難しいです。見様見真似で一応描けると思っていましたが、子供の絵みたいになってしまいました笑。自分のできないことがこの歳になって、しかも自分が専攻している仕事のジャンルで出てきたので面白くなってきましたね。
–凄まじいこだわりと熱量ですね
インスタのアカウントが2つあるのですが、水墨画タトゥーの方にマネージャーがついています。そのくらい水墨画に特化してます。
筆タトゥーで調べると、他の彫り師さんの作品もたくさん出てくると思いますが、乱れ方とかをそこまで分析している人ってあんまり見たことがないんです。これは他の彫り師さんに対するディスではなく、自分の強みや性格が水墨画の中に現れたのかなと思っています。
–彫みつさんの今後の展望を教えてください
今後はどんどん店舗を増やしていくつもりで、それに合わせて弟子も増やしていきます。海外の話もあり、国外も含めて多店舗展開していきます。
–タトゥーアーティストは属人性が高いと思うのですが、店舗展開の障害になりませんか
僕自身がそれぞれの店舗に頻繁に行くので、現状特にネックには感じていないです。
おっしゃる通り、僕が1つの店舗に留まって、別の支店は他の人に任せて、たまにしか行かないのであれば絶対回らないと思います。
僕は本来、居心地の良いところに長居してしまうタイプなので意識的に色々な所に動くようにしています。特に東京は上には上がいるので、天狗にならなくて済むというか、良いプレッシャーになるんですよね。
実際に、東京に出たことで技量や考え方も色々変わってきたので、正解だったと思うんです。一つの場所にずっと留まっていると緩やかに落ちていくと考えています。
–最後に彫みつさんにとってタトゥーとは
探究心と好奇心を満たしてくれるものですかね。
タトゥーは間違いなく自分を変えてくれて、色々な方の温かみを感じられるきっかけにもなりました。
彫り師という職業だけでなく、タトゥー、刺青自体にも恩を感じています。